AI 対応を急ぐべきかを3つの問いで判定する:Adobe の7月データから
自社が AI 対応を急ぐべきかは、業界・顧客層・商品カテゴリの3つの問いで決まります。AI 経由の訪問数と購入割合を測った Adobe の米国データを目安に、自社のアクセス解析と顧客データで答えを出す手順を示します。
時事・分析Photo: Eduardo Soares / Unsplash米国では、ChatGPT のような AI に相談してから、店のサイトを訪れる人が増えています。ただし、AI 経由でサイトに来る人の増え方は、業種によって倍ほど違います。
8月19日に Adobe が公開した2026年7月のデータでは、AI の回答から旅行サイトに来た人が、去年の同じ月より 119% 増えました。小売サイトでは 62% 増えています。
この記事では、自社が AI 対応を今すぐ進めるべきかどうかを、3つの問いで判断する方法を示します。このデータが公開されてからおよそ1か月半後、10月2日時点の内容です。
- Adobe の7月データでは、AI から来た人が旅行サイトで前年同月比 119% 増、小売サイトで 62% 増
- 判断の軸は、自社の業界・顧客層・商品カテゴリの3つ。Yes が多いほど急ぐ理由がある
- どれも Yes にならないなら、対策より先に AI 経由の訪問を記録しておく
7月のデータでは、AI から来る人が増え、買う割合も AI 以外に並ぶか上回った
※ この記事では、ChatGPT や Gemini などの AI に質問した人が、回答に出てきたリンクをクリックしてサイトに来ることを「AI 経由の訪問」と呼びます。
Adobe Digital Insights が8月19日に公開したデータによると、2026年7月の米国では、AI 経由の訪問が、旅行で去年の同じ月より 119%、小売で 62% 増えました。
また、AI 経由でサイトに訪問した人数が増えただけでなく、AI 経由で来た人は実際に買う割合も高くなっています。小売では、その割合が AI 以外から来た人より 60% 高い水準です。
しかも、この状態は 11 か月続いています。さらに9月28日公開の Holiday Forecastを見ると、8月も 48% 高く、上回る状態が続いていました。
旅行では、AI 経由で来た人の購入割合がまだ 1% だけ低いですが、1年前は 47% も低かったので、ほぼ並ぶところまで来ました。
レポート本体によると、旅行ではこの1年で、AI 経由で来た人の購入割合が 16% 上がり、AI 以外から来た人は 38% 下がりました。
売上で見ても同じです。小売では、1人がサイトに来るたびに生まれる売上が AI 経由のほうが 53% 多く、1年前は AI 以外のほうが 128% 多かったので、1年で関係が逆転したことになります。
なお、この差は8月には 43% でした。最も大きかったのは5月と7月の 53% です。一方で、小売に来る人の伸びはさらに加速していて、8月は 127% 増です。Adobe は、11月から12月も 130% 増で続くと見込んでいます。
※ 購入割合の差は、AI 以外の経路の購入割合を 100 としたときの差
※ 小売はその後も加速し、8月は訪問の伸びが 127%、購入割合は 48% 高い(2026年9月28日公開の Holiday Forecast)。旅行と金融サービスの8月の数値は公表されていない
ここまでは、Adobe が公開した米国の数値です。ここからは、その数値を目安にしながら、自社の答えを出す手順に移ります。
問い1: 業界の伸びは、自社のサイトにも届いているか
まず、自社の業界の数字を見ます。7月の数字は、Adobe が8月19日に公開したレポート本体に出ており、旅行と小売に加えて、金融サービスが 31% 増でした。
もう少し広く見てみます。4月に Adobe が公開したレポートは5つの業種を対象にしていて、1〜3月は小売が 393% 増、テック・ソフトウェアが 63% 増と、上と下で6倍以上の差がありました。
ただし、伸び率だけを見ると判断を誤ります。1〜3月にいちばん伸びが小さかったのはテック・ソフトウェアでしたが、サイトに来た人のうち AI 経由の人が占める割合は、この業種がいちばん高くなっていました。
その割合はメディア・エンタメの約2倍、小売の約4倍にあたります。つまり伸びが小さいのは、すでに割合が高いところまで来ているからだと考えられます(推定)。
ここまでは米国の数字なので、自社の答えは自社のアクセス解析から出します。アクセス解析とは、サイトに何人来たか、どこから来たかを毎日記録している道具で、Google アナリティクスなどが使われます。
アクセス解析の記録には、参照元(訪問者が直前に見ていたサイト)が残っています。GA4 なら、レポートの「集客」から「トラフィック獲得」を開き、「セッションの参照元」の一覧を見てください。
その一覧から ChatGPT や Gemini など AI サービスの名前を探し、自社サイト全体の訪問に占める割合を月ごとに出してみてください。
自社の割合がこの1年で上がっていれば、問い1の答えは Yes です。上がっていなくても、AI サービスが参照元の上位5位以内に入っていれば Yes とします(本ラボの目安)。どちらでもなければ No です。
問い2: 自社の顧客は、AI に相談する層か
自社サイトの数字がまだ動いていなくても顧客の行動は先に変わることがあり、変わりやすいかどうかは顧客の年代によって違います。
Adobe が7月に米国で行った消費者調査の結果では、買い物で AI アシスタントを使ったことがある人は 42% と、3月の 39% から増えています。
使った人の評価も高く、そのうち 77% が、AI を使ったことで買うときに自信が持てたと答えています。
ただし、使った経験の有無は年代でくっきり分かれます。30歳以下は 56% が使っている一方、62〜80歳は 23% で、2倍以上の開きがありました。
違うのは、使うかどうかだけではありません。45歳以下の層では、買い物で AI を使う場面のうち 12% が購入の直前で、62〜80歳の 5% の2倍以上でした。つまり若い層は、買う直前まで AI を使っていると読めます。
※ 数値は Adobe の本文の記載値。同レポートの図では、1ポイント前後違う値になっているものがある
ここまでは米国の年代構成の話ですが、自社の顧客の年代は手元の自社の顧客データを分析していただければ分かります。EC の会員データや購入データを、年代別に集計してみてください。
確かめるのは次の2点です。
- 自社の主な購買層の年代はどこか
- 商談や問い合わせで、顧客から「AI で調べた」と言われたことがあるか
主な購買層が45歳以下であるか、顧客から「AI で調べた」と聞いたことがあれば、問い2の答えは Yes です(本ラボの目安)。
問い3: 自社の商品カテゴリは、AI から見えにくいか
AI が自社の情報を読み取れないと、AI はその商品をおすすめの候補に挙げられません。
Adobe は AI Content Visibility Checker という診断ツールを公開しています。ページに書かれた内容のうち、何割を AI が読み取れるかを 100 点満点で採点する道具です。
7月の結果では、小売でいちばん高いアパレルが 76 点、いちばん低い食品が 59 点で、差は 17 点でした。旅行はさらに開いていて、トップページでホテルが 71 点、航空会社が 42 点です。
※ 小売は総合点、旅行はトップページの点で、指標が異なるため両者は直接比べられない
上位3カテゴリには共通点があります。アパレル・電子機器・化粧品は、商品情報が一貫した形で整理されていると Adobe は挙げています。報道記事や自社ブログなど、商品ページ以外の情報の充実も効いているとしています。
ただし、この点数はカテゴリの平均です。4月のデータでは同じ小売のトップページでも上位のサイトが 82.5 点、下位が 54.2 点で、カテゴリの中のばらつきはカテゴリ間の差より大きくなります。
そこで、自社のページを実際に測ります。この採点ツールは無料で、Chrome の拡張機能として公開されており、Adobe のライセンスも要りません。ただし、拡張機能の表示は英語のみです。
使い方は簡単です。ページを開いて実行すると、点数と、人には見えるのに AI には見えていない箇所が表示されます。まずは価格や在庫が載っている売れ筋の商品ページで試してみてください。
自社の点数が、同じ種類のページのカテゴリ平均を下回っていれば、自社は見えにくい側だと判断できます。比べる相手は、次の数値です。
※ この平均も月によって動く。6月17日公開(5月データ)では旅行の商品ページがホテル 73、レンタカー 71 と順位が逆で、小売の商品ページは4月の集計で平均 66 だった
AI に直接聞く方法もあります。商品ページの URL を AI に渡し、価格・在庫・サイズ・返品条件を正しく答えられるかを確かめます。
ただし、AI がページを取得できず別の理由で答えられないこともあるため、答えられなかった項目は、ページ上に文字で書かれているかを自分の目でも確かめてください。
自社の点数がカテゴリ平均を下回るか、文字で書かれていない項目が見つかったら、問い3の答えは Yes です。
技術的補足: AI に届くのは、HTML に文字で書かれた情報
ここからは、サイトを直す際の技術的な補足です。要点は「AI に読ませたい情報は、HTML に文字で書く」の一点なので、ここを読み飛ばしても後の判定には進めます。
AI は、情報を集めるためにサイトを見に来るプログラム(クローラー)が取得したページの内容を、回答に使います。
JavaScript で後から表示する価格や在庫は、この内容に入らないことがあります。Vercel が2024年12月に計測した結果では、Gemini と Apple 以外の主要な AI クローラーは JavaScript を実行していませんでした。
クローラーが持ち帰るのは文字の情報なので、画像の中に書き込んだ仕様表は持ち帰れません。そこで、価格・在庫・返品条件は HTML に文字で書き、画像の中の仕様表も文字に直します。
あわせて、構造化データでも示しておきます。構造化データとは、商品名や価格を機械が読みやすい決まった形で書いておく書き方で、schema.org の Product などがあります。Google 検索も、商品の表示にこの書式を使っています。
確かめ方は簡単です。ブラウザの「ページのソースを表示」を開き、価格や返品条件が文字で入っているかを見ます。
robots.txt は、クローラーの立ち入りを指定するファイルです。ここで検索用の OAI-SearchBot を拒否すると、自社のサイトは ChatGPT の検索回答に出なくなります。OpenAI の説明では、拒否した場合もナビゲーション用のリンクとしては表示されることがあるとしています。
3つの答えで、やることが決まる
ここまでの3つの問いへの答えを並べて、AI 対応を急ぐべきか判断しましょう。どの問いも、Yes は「急ぐ理由がある」を意味します。
3つとも Yes なら、業界の伸びが自社サイトにも届き、顧客層も AI を使い、しかも自社のページが AI から読み取られていない状態なので、今すぐ手を付ける価値があります。
Yes が1つか2つなら、Yes になった軸から始めれば十分です。先にやることは、軸ごとに違います。
- 業界: 計測と、受け皿(AI 経由で来た人が最初に見るページ)の整備
- 顧客層: 価格や返品条件など、購入の直前に AI に聞かれる情報を文字で置く
- 商品カテゴリ: 自社のページを採点ツールで測り、画像に書いた仕様を文字にする
Yes が0なら、今月やることは計測の準備だけです。問い1で出した AI 経由の割合を、購入割合とあわせて毎月記録します。
計測を急ぐ理由は、変化が速いからです。旅行では購入割合の差が1年で 47% からほぼ互角まで縮みましたが、今のうちに記録を分けておけば、こうした変化が始まった時期を後から確かめられます。
自社が AI 対応を急ぐかどうかは、世の中の流行では決まりません。決めるのは自社の3つの答えであり、Yes が0なら、待つ判断でかまわないと筆者は考えます。
ただし Yes の数にかかわらず、計測だけは今月から始めてください。
今回のレポートで改めて、この1年で AI 経由の購買が急速に存在感を増していることを実感しました。
伸び率が落ち着いているソフトウェア・テック領域は IT に詳しい人が多いため比較的早い行動変化だったかと思いますが、伸び率が大きい小売、旅行領域は IT に詳しいかどうか関係なく、誰もが関わるカテゴリです。
Adobe のデータは米国のものでありますが、日本にこの波が来るのもあっという間だと思います。まずは自社のデータをウォッチしていただき、先行して動く際の後押しに本記事がなれば光栄です。
全記事に執筆後記を掲載しています(編集方針)
AI Traffic Trends Report: August 2026 (Adobe Digital Insights・レポート本体 PDF)business.adobe.com
How AI is reshaping travel planning. (Adobe Business Blog, 2026-08-19)business.adobe.com
Quarterly AI Traffic Report (Adobe Digital Insights, 2026年4月公開・レポート本体 PDF)business.adobe.com
AI Traffic Trends Report: August 2026 (レポート紹介ページ)business.adobe.com
AI travel traffic surges as engagement hits new highs (Adobe Business Blog, 2026-06-17)business.adobe.com
AI traffic grows but retail sites lag in AI search visibility (Adobe Business Blog, 2026-04-16)business.adobe.com
2026 U.S. Holiday Forecast (Adobe Digital Insights, 2026年9月公開・資料本体 PDF)business.adobe.com
Adobe: U.S. Holiday Shopping Season to Hit Record $275.1 Billion Online, Rising 6.7% YoY (Adobe News, 2026-09-28)news.adobe.com
Adobe's AI Content Visibility Checker diagnoses your site's visibility (Adobe Business Blog, 2026-06-18)business.adobe.com
AI Content Visibility Checker, powered by Adobe Brand Visibility (Chrome ウェブストア・提供元 Adobe, Inc.)chromewebstore.google.com
The rise of the AI crawler (Vercel Blog, 2024-12-17)vercel.com
Overview of OpenAI Crawlers (OpenAI)developers.openai.com
Merchant listing (Product, Offer) structured data (Google Search Central)developers.google.com
[GA4] トラフィック獲得レポート (アナリティクス ヘルプ)support.google.com

STRACT でコーポレート全般を担当する。エンジニア以外の立場から、技術の詳細より先に事業がどう判断するかを扱い、本ラボでは AI 対応の優先度や組織への影響を書く。
長谷川 未来の記事一覧 →